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「Aren't you 模索?~はじめてのプレイバック・シアター~」 演劇の新しい可能性を求めて
日本大学芸術学部演劇学科 演劇創造 34 2005
2004年12月7日(火)、日本大学芸術学部所沢校舎共同実習棟実習室1(通称:ブラックボックス)にてとあるワークショップが行われた。
タイトルは「Aren't you 模索?~はじめてのプレイバックシアター~」
プレイバック・シアターを知らない1,2年生に向けて行われたこのワークショップは、スタッフを含め総勢26名の参加者が集まった。
1時間30分という短い時間ではあったものの、内容は非常に濃いものとなり、参加者全員から「またこのようなワークショップがあったら参加したい」との感想をいただいた。
まだ日芸内では認知度の低いプレイバック・シアターのこれからの可能性を再認識するものとなり、手応えを得る実りある機会となった。
プレイバック・シアターとは何だろうか。
一言で言えば「分かち合いの場=人と人との繋がりを生み出す場」であると言える。
人と人との関係性が生まれるのはどんなときであるか、考えてみよう。
それは例えば、自分と相手に共通点があることをお互いに認識した瞬間であったり、相手が何を考えているのか、何を感じているのかを自分の中で受け止め、何らかの形で相手に返すことが出来た瞬間であるとおもう。
その一つ一つの瞬間を様々なエクササイズや、芝居の要素を使ったワークを経て提供するのがプレイバック・シアターなのだ。
その場で、ある一人が語った自分についての物語を、役者が即興で劇にして表現する。
物語は日常生活で起こった出来事、過去のこと、現在のこと、未来のことでも、なんでもかまわない。
表現された物語は、語った本人をはじめとしたその場にいる全員に分かち合われ、共有される。
役者が出来るのは今まで演劇経験がある人だけとは限らない。
はじめて、「演じる」という形に触れる人、役者を体験する人もきちんと役割を果たすことが出来る。
それは、「うまく演じる」ということよりも、物語を語った相手に対して誠実に、自分なりに精一杯演じる気持ちを持つことが大切なこととされているからだ。
一つの場所にとどまらず、老人ホーム、精神科クリニック、学校、企業研修と広い領域においておこなわれているこの手法は、演劇のある一つのカタチが社会に通用している数少ない例であると思う。
私は大学3年になるまで、このような手法があることを全く知らなかった。
応用演劇として設けられていたこの授業の実践活動に参加して、私の中に改めて演劇の可能性を探ってみたいという気持ちが生まれた。
「もっと多くの人にプレイバック・シアターを知ってほしい」「もっとこの手法の可能性を探っていきたい」という思いが募り、戸田先生の助言をもとに、この演劇の形を所沢校舎の学生達に向けて発信しようと考えた。
日芸PTP―日芸プレイバック・シアタープロジェクトの始まりである。
目的は「実際に社会での活動が著しい応用演劇としてのプレイバック・シアターを提示することで、演劇との関わりを模索している1、2年生の学生に向けてある一つの指針を打ち出す機会になるよう試みる」というもの。
大学側の協力を得てこの企画は始まり、提供する側としてプレイバック・シアター研究所のスタッフである太田華子さんを含めた8名のメンバーが集った。
私たちは週に1度、メンバーの中におけるプレイバック・シアターを実施し、チーム作りを行った。
その中で、「プレイバック・シアターに対して興味を持ってもらうにはどうしたら良いのか」「自分達がプレイバック・シアターを提供する上で、何を重要視すれば良いのか」ということが度々テーマとして挙げられ、話し合われた。
必然的に、それは自らの過去の学生生活を振り返る作業となった。
1、2年生のとき、自分達は何を求めていただろうか。何を不安に感じていただろうか。
何に対して興味を惹かれていただろうか。何に対して―。
私は2年生のときに学校に行かなくなってしまった自分のことを思い出した。
後期授業はほとんど顔を出していないのではないだろうかというぐらい、疲れてしまって自宅でごろごろしたり、下北沢にふらふら赴いたりしていた。学生生活に行き詰ってしまったのである。
自分がやりたいことって何なんだろう。今まで頑張ってきたことって何かの役に立つのかな。私に出来ることは特に無いんじゃないだろうか・・・と堂々めぐりの考えに頭をめぐらせていた。
「演劇を社会に活かしていく方法を見つけたい」これは私が日本大学芸術学部に入学したときからのテーマだった。
興味は方向を変えながら、とりあえず出来ることは何でもやろうと思い様々なものに手を出した。
劇団内における役者、脚本、こども会へ向けての企画、ボランティアなど―だが、それぞれの活動の中で貴重な経験と手応えを得るものの、明確なカタチとして「これが出来る」というものはなかなか見つからなかった。
劇場以外で演劇が活用される場はないのだろうか。そのための方法論はないのだろうか。
今となっては大事な時期であったと思うのだけれど、当時はまさに出口の無い迷路に自ら迷い混んでいるようで、自分が演劇学科に於いて学んだことを、どのようにこれから先の人生に活かしていけば良いのか考えあぐねていた。
「演劇は舞台と観客席のある劇場で行われるものだ」
そういう認識が、まだまだ数多くあると思う。実際、私も3年生になるまで応用演劇というものを学んだことは無かったし、演劇というものが教育や社会において活かされている場があることを知らなかった。
所沢校舎で悩んでいた当時、これらのことを知っていたらもっと気持ちは楽になったのかもしれない。
もちろん、ひとりひとり、やりたいことも、出来ることも違うから、一概にそうだとは言えないのだけれど。
何らかのひとつの指針にはなったのではないかと思うのだ。まさに、日芸PTPにおける目的は、過去の自分が求めていたものに向けて発信された事柄であった。
その意味合いは、とても大きいものだ。
今回のワークショップは、日芸ならではの創造力あふれる時間となった。
参加してくれたのは演技コースだけではなく、理評コース、劇作コース、他学科、また他大学で社会福祉を学ぶ人だったりと実にさまざま。それぞれの個性が、それぞれ何らかの形で存分に発揮された。
はじめてプレイバック・シアターに触れる参加者の表情から、自分がはじめてこの手法を知ったときのことを思い出した。
おどろいたり、感心したり、もっとやってみたい!と思ったり。
このワークショップが、参加してくれた人たちにとって、何かを得るきっかけになっていてくれれば嬉しいとおもう。
そして、このワークショップをきっかけに、プレイバック・シアターだけではなく、演劇における可能性を学生自ら探っていく作業が、さらに増えていけば良いな、とおもう。
もし、今現在、学生生活につまづいていると感じていて、さまざまな演劇の形に興味を持ったという人がいたら、是非、落胆せずに新しいものをキャッチするアンテナを張っていて欲しい。
そして見つけたらどんどん吸収していく姿勢を持っていて欲しい。
自分が今現在、目にし、耳にしている事柄よりも多くの可能性を演劇は、持っている。
日本大学芸術学部演劇学科 演劇創造 34 2005
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