トップ>文献・論文>企業におけるプレイバック・シアターの実践と考察>バラエティに富んだ表現手法
トップ>企業教育、組織開発への導入>企業におけるプレイバック・シアターの実践と考察>バラエティに富んだ表現手法
企業におけるプレイバック・シアターの実践と考察~ プレイバック・シアターは企業に何を提供できるのか? ~
プレイバック・シアター研究所 主催 実践リーダー養成プロジェクト 第4期 卒業論文
富士ゼロックス株式会社 人事部人材戦略グループ 組織力強化センター 河野 朝子
- バラエティに富んだ表現手法 -
プレイバック・シアターは、ここで語ってみたいと思った人がテラーとなり、自ら体験を語ります。
それは、最近のことでも、子供の頃のことでも、夢で見た話でも、亡くなった人との思い出でも、いつの場面でもよいのです。また、嬉しかったこと、悲しかったこと、悔しかったこと、驚いたこと、困ったこと、嫌だなあと思ったこと、誇らしく思ったこと、懐かしく思うこと、どんなことでもよいのです。
そして、それは、ストーリー性のある場面で語られることもあれば、今この瞬間の心の状態や湧き起こっている気持ちとして表現されることもあります。さらには、漠然とした、抽象的な、または象徴的なイメージとして伝えられることもあるでしょう。
このように、プレイバック・シアターは、テラーの語りたいもの、観たいものを自由自在に表現していきます。したがって、語られたテーマにふさわしい形で、最大限に表現できるよう、バラエティに富んだ表現手法があり、それぞれ魅力あるものとなっています。
ここでは、数多くある表現手法の中でも、もっともオーソドックスな手法を紹介します。
【プレイバック・シアターの主な表現手法】
1.ストーリー:
プレイバック・シアターの中心的手法。
コンダクターがテラーの個人的体験をインタビューし、それをもとに複数のアクターが即興劇を演じる。
能に見られる“序破急”の流れをもって演じられることが多い。
インタビューに始まり、劇が演じられ、劇の後でお互いの印象をシェアする対話に至るまでの一連の流れをさす。
即興で奏でられる効果音や音楽も重要な要素を占める。
2.動く彫刻:
起承転結のあるストーリーとしてではなく、ある瞬間のテラーの気持ちや感情を彫刻で表現する。
3人くらいのアクターが身体を寄せ合って一つの彫刻をつくる。
個々のアクターは、それぞれ異なる動作と声を繰り返して発するが、全員の動きと声が重なり合って一つの作品となる。
ひとしきり動いたら、最後は全員でフリーズして終了する。
3.ペアーズ:
相反する二つの感情が同時に混在し、葛藤する様を表現する手法。
「食べたい、でも痩せたい!」という気持ちなど。
二人一組のアクターが観客に対して前後に並んで立ち、その位置を固定したまま、交互に異なる気持ちを動きと声で表現する。
4.コーラス:
語られたストーリーを、時系列や起床転結に縛られず、湧き上がるエネルギーで展開していく手法。
4~5人のアクターが一つのかたまりになり、その中の1人が身体の動きと声で一つの気持ちや情景を表す。
他の人も瞬時にそれをまねて動く。しばらくして、そこから別のアクターが飛び出て新しい動きを表すと、
他の人はこのアクターにすぐに寄り添い、これをまねていく。これを繰り返しながらストーリーをつくっていく。
5.コラージュ:
その日に演じられた各ストーリーのハイライトだけを断片的に抜き出し、短い演技の組み合わせとして演じる手法。
映画の予告編あるいは、ドラマの総集編を見ているような効果を生む。
ワンシーンを演じ終わったら、アクターは一瞬フリーズしてから次の場面に移っていく。
プレイバック・シアターでは、これらの多様な表現手法を用いて、そこに集った人同士の気持ちや体験を分かち合っていきます。
分かち合いの場の形式についても触れておくと、「ワークショップ」と「パフォーマンス」、そして、それらの「融合スタイル」の3種類に大別されます。最初の二つについて表で比較してみましょう。
【表1:ワークショップとパフォーマンスの違い】
|
ワークショップ |
パフォーマンス |
開催時間 |
2時間~3日(合宿) |
30分~2時間 |
会場の使い方 |
ラウンド(椅子で輪になって座る)
※必要なときだけステージと客席に |
対面(観客がステージを向いて座る)
※最初から最後までステージと客席で |
構造を表す記号 |
○ |
= |
人 数 |
6名~25名程度 |
20名程度~会場の収容人数 |
メンバーの役割 |
コンダクター以外の全員が参加者
※テラーはもちろん、アクター、ミュージシャンも参加者が交互に担う |
コンダクター、アクター、ミュージシャンを担う運営スタッフと、観客とに分かれる
※テラーは観客から募る |
準 備 |
本番の中で、お互いが知り合う時間やアクティングに移っていくためのウォーミングアップを持つことが必要 |
本番の前に、運営スタッフ間で、本番の流れの打ち合わせ・アクターの息合わせ・ウォーミングアップなどが必要 |
参加者同士の関係性 |
直接的関係性 (対話を通して知る)
お互いに知り合う |
間接的関係性 (舞台を通して知る)
お互いを知られなくて済む |
メリット |
個々の反応をシェアリングできる
知り合うことで、安心感や一体感が得られやすい |
短時間でできる
観客は観るだけでもよく抵抗が少ない
慣れたアクターが表現しきれる |
デメリット |
時間を要する
自己開示が苦手な人には抵抗あり
不慣れな人が演じるときのリスクあり |
個々の反応がわかりづらい
個々とシェアリングができない
安心感や一体感は得られにくい |
つまり、これら3種類の場について、まとめると、次のようになります。
【プレイバック・シアターの場の形式】
1.ワークショップ:
自己紹介からはじまり、ゲームやエクササイズなどのウォーミングアップを経て、参加者全員でストーリーを分かち合う。
参加者が実際に身体を動かし、語り、演じるため、積極的な参加が必要。そのプロセスを一緒に体験することで一体感が生まれる。
2.パフォーマンス:
ストーリーは、基本的にあらかじめ決められたアクターが演じる。
参加者は、手を挙げてテラーにならない限り、観ているだけなので、消極的な人、初めての人でも気軽に参加してもらえる。
場の一体感は同じストーリーを分かち合うことで生まれる。
3.融合スタイル:
ワークショップで体験する身体や心をほぐすゲームや、
小グループのエクササイズ、ストーリー後のシェアリングなどを盛り込んだパフォーマンス。
ワークショップが全員参加型なのに対し、パフォーマンスは慣れたスタッフによる“見せる”要素が多いイベント型といえます。
パフォーマンスは、結婚式や定年退職を祝う会、親しかった人を偲ぶ会などの場で行われることがあり、主役の大切な思い出や未来のありたいイメージを即興劇によって分かち合える芸術として喜ばれています。
・Next リチュアル(枠組み)>>
第Ⅰ章 プレイバック・シアターとの出会い
プレイバック・シアターとの出会い / プレイバック・シアターってどんな劇?
第Ⅱ章 プレイバック・シアターの基礎知識
プレイバック・シアターの成り立ち / バラエティに富んだ表現手法 / リチュアル(枠組み) / 肝心要のウォーミングアップ
第Ⅲ章 企業における、プレイバック・シアターの実践
実践リーダー養成プロジェクト / 実践活動の企画 / 集客活動 / 運営準備 / 当日の流れ
第Ⅳ章 プレイバック・シアターの可能性 ~ プレイバック・シアターは企業に何を提供できるのか? ~
企業での実践を終えて(参加者の反応と効果) / プレイバック・シアターに私が託したいこと / おわりに
- 参考資料 -
1.実践活動の企画書 / 2.チラシ-#1 (グリーン、片面) / 3.チラシ-#2 (ピンク、両面)
4.実践記録 / 5.参加者用アンケートフォーム / 6.アンケート集計結果
- 参考文献 -
ジョー・サラ 著 『プレイバック・シアター 癒しの劇場』 (社会産業教育研究所、1997年)
プレイバック・シアター研究所(羽地朝和、太田華子) 実践リーダー養成プロジェクト 合宿記録
NPO法人プレイバック・シアターらしんばん アクティングコース ハンドアウト |