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企業におけるプレイバック・シアターの実践と考察~ プレイバック・シアターは企業に何を提供できるのか? ~
プレイバック・シアター研究所 主催 実践リーダー養成プロジェクト 第4期 卒業論文
富士ゼロックス株式会社 人事部人材戦略グループ 組織力強化センター 河野 朝子
- 肝心要(カナメ)のウォーミングアップ -
プレイバック・シアターには、「ニュートラル」という言葉があります。直訳すると、中立の、公平な、中間の、中性の、という意味があり、プレイバック・シアターでは、心理的な、あるいは身体的な制約を受けない自由な状態のことをいいます。
自由な状態とは、過度な緊張や不安にさいなまれず気持ちが安定している状態、今、ここに、目の前の相手に意識が集中できている状態、つまり、他のことが気にかかっていない状態、身体や声が自由自在に操れるだけほぐれてリラックスしている状態です。
自動車のギアでニュートラルが大事なように、プレイバック・シアターでも、ニュートラルな状態を大切にしています。
なぜなら、自分の中に湧き起こるひらめきを手がかりに、誰かになりきって、その気持ちを豊かに表現するためには、いわば、自分自身が空っぽな“無我”の状態にならなければいけないからです。
即興で演じるプレイバック・シアターでは、このように心身ともにニュートラルになって、初めて役を演じる準備ができているといえるでしょう。
ところが、ワークショップにやってきて、いきなりすぐにニュートラルになることは、熟練者であっても難しいものです。そこで、快適なニュートラルの状態をつくるために、プレイバック・シアターでは、ウォーミングアップと称して、さまざまなエクササイズを行います。
ここで、エクササイズのねらいと主な方法をご紹介しましょう。
【エクササイズのねらい】
1.身体のウォーミングアップ ・・・固くなっている/目覚めていない身体をほぐす
2.心のウォーミングアップ ・・・ゲームなどで緊張をほぐす
3.参加者同士の相互関係づくり ・・・お互いを知り合う、自分を出し、相手を受け入れる
4.表現力のウォーミングアップ ・・・直観、ひらめきで身体を動かし声を出す
5.ストーリーを喚起するウォーミングアップ ・・・昔を思い出す、イメージを膨らませる
6.プレイバック・シアターを象徴的に体験する ・・・即興に徐々に慣れる
【表2:エクササイズの主な方法】
エクササイズ |
ねらい |
概 要 |
ペアマッサージ |
1,2,3 |
ペアでマッサージしあう。
効果:身体の触れ合いに慣れる、安心する、感謝の気持ちをもつ |
マッッピング |
2,3,5 |
会場全体を四象限の地図に見立て、縦軸と横軸のテーマを掛け合わせた今の自分の位置に全員が立って分布図をつくる。例えば、縦軸:「心の調子の良し悪し」×横軸:「身体の調子の良し悪し」。その後、近い位置で小グループをつくり、シェアリングする。効果:お互いを知り合う、ストーリーを喚起する |
サウンド&ムーブメント |
1,2,4,6 |
輪になって、誰かが発する動きと声の組み合わせを全員で一緒に楽しみ、これを順番に回していく。
効果:相手を感じる、息を合わせる |
ミラーリング |
1,3,4 |
ペアで向かい合い、鏡に映っているように、主の動きを従がまねて動き、これを交互に楽しむ。
効果:動きの多様性を知る、恥ずかしさが薄れる、相手の動きを予測して動く |
動く彫刻 |
1,2,3,4,5,6 |
全員がテラーとアクターを交代しながら動く彫刻を一回りやる。
効果:自分の気持ちを出すことに慣れる、自分の気持ちを受け入れてもらえることを体感する |
・バースデイライン
・人生の転機
・タイムトリップ |
2,3,5 |
誕生月、人生の転機(歳)、タイムトリップで行きたい年(~年前/後)などを聞き、数字の昇順で一列に並ぶ。近い者同士で小グループをつくり、それにまつわる話をシェアリングする。
効果:お互いを知り合う、昔を思い出し、ストーリーを喚起する |
劇づくり |
3,4,5,6 |
小グループで、自分たちの劇を構成し、それを即興で演じる。
効果:ストーリ-に必要な情報量を知る、即興劇を体験する |
※「ねらい」の番号は、各エクササイズが「エクササイズのねらい」1~6のどれを満たすかを示しています。
プレイバック・シアターには、このように多様なエクササイズがあり、ワークショップの目的や参加者の経験度合などに応じて自由に組み合わせ、質の高いストーリーへとつなげていきます。
ところで、ウォーミングアップにより徐々にニュートラルな状態に入っていくことも重要ですが、その一方で、何らかの役を演じ終わった後、再びニュートラルに戻ることも大切です。つまり、ある役から自分を解放してあげるということです。
感情移入して演じると、演技が終わった後もその役の感情がなんとなく抜けきらないことがあります。それを自分の中に溜め込んで自分自身の気持ちと混同してしまうのは危険な状態です。役から降りることを「デロール」といいますが、プレイバック・シアターのアクターは、役を降りると同時に、非日常の舞台から日常の自分に戻ることを明確に意識することを心がけています。
一見、自由奔放で成り行きに任せて演じられているようなプレイバック・シアターですが、実は、基本となるリチュアルと念入りなウォーミングアップにしっかりと支えられ、さらにバラエティに富んだ表現手法が駆使されて成り立っていることをおわかりいただけたことでしょう。
その根底には、参加する一人ひとりを大切にする精神が込められていることはいうまでもありません。
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第Ⅰ章 プレイバック・シアターとの出会い
プレイバック・シアターとの出会い / プレイバック・シアターってどんな劇?
第Ⅱ章 プレイバック・シアターの基礎知識
プレイバック・シアターの成り立ち / バラエティに富んだ表現手法 / リチュアル(枠組み) / 肝心要のウォーミングアップ
第Ⅲ章 企業における、プレイバック・シアターの実践
実践リーダー養成プロジェクト / 実践活動の企画 / 集客活動 / 運営準備 / 当日の流れ
第Ⅳ章 プレイバック・シアターの可能性 ~ プレイバック・シアターは企業に何を提供できるのか? ~
企業での実践を終えて(参加者の反応と効果) / プレイバック・シアターに私が託したいこと / おわりに
- 参考資料 -
1.実践活動の企画書 / 2.チラシ-#1 (グリーン、片面) / 3.チラシ-#2 (ピンク、両面)
4.実践記録 / 5.参加者用アンケートフォーム / 6.アンケート集計結果
- 参考文献 -
ジョー・サラ 著 『プレイバック・シアター 癒しの劇場』 (社会産業教育研究所、1997年)
プレイバック・シアター研究所(羽地朝和、太田華子) 実践リーダー養成プロジェクト 合宿記録
NPO法人プレイバック・シアターらしんばん アクティングコース ハンドアウト |