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企業におけるプレイバック・シアターの実践と考察
企業におけるプレイバック・シアターの実践と考察~ プレイバック・シアターは企業に何を提供できるのか? ~
プレイバック・シアター研究所 主催 実践リーダー養成プロジェクト 第4期 卒業論文
富士ゼロックス株式会社 人事部人材戦略グループ 組織力強化センター 河野 朝子

—- 企業での実践を終えて(参加者の反応と効果) -
  (1)体験した感想 (2)一番印象的だったこと (3)プレイバック・シアターの認知度 (4)ワークショップへの期待
  (5)期待に対する満足度 (6)日常への活かし方 (7)ワークショップのタイトルについて (8)企業における活用について
  (9)企業で活用するときのテーマや方法 (10)企業で活用する場合の課題と阻害要因 (11)今後の参加希望
  (12)企画・運営についてのご意見、今後へのご要望

 今回のワークショップでは、参加者の胸のうちを少しでも詳しく知るために、アンケートを実施しました。
終了時にアンケート用紙を配布するとともに、その電子ファイルをメールで送信し、手書きと電子入力のどちらでも選べる形で回答してもらいました。参加者はとても協力的で、翌週には、17名全員のアンケートの回収を終えました。

 ここでは、そのアンケート集計結果(アンケートの質問ごとの回答傾向)をもとに、さきほど記したワークショップの各場面を思い浮かべながら、参加者の反応についての考察を行います。
※アンケート用紙とアンケート集計結果については、巻末の参考資料5と6を参照

(1)体験した感想
設問1:プレイバック・シアターを体験してみて、今、わき起こっている気持ち、ご感想を率直にお聞かせください。 (自由記入形式)

 私がこの設問で期待したことは、体験直後に感じている素直な気持ちや思い浮かんでいることを、何の制限も設けずにオープンにぶつけてもらうことでした。
参加者の皆さんは、それぞれの思いをコメント欄にぎっしりと書いてくれました。中には、この設問だけで、A4サイズ1枚分ものコメントを寄せてくれた人もいたほど、潤沢な情報が得られました。書き込みの量は、それだけでも参加者が強いインパクトを受けたということ、また、強い関心を持っている現れだといえるでしょう。

 回答をじっくり観察していくと、多くのコメントの中にも何らかの共通性が認められ、私は、これを次の表のような三つのくくりに大別しました。

【表7:わき起こっている気持ち、感想】

回答傾向

主な内容

回答数

自分の気持ち、自分自身や人間への気づき

快感(解放感、爽快感、癒し)、感動

15

25

気づき(自己認知、自己発見)

6

不思議

4

体験、手法についての考察や感想

手法についての解釈

10

16

体験を通じての感想

6

他者との関係性の深化

共感(他者理解、相互理解)

7

12

つながり(親近感、一体感)

5

※アンケート集計結果の詳細は、巻末の参考資料6を参照
※自由記入のコメントすべてからキーワードを抜粋し分類、1人のコメントに複数のキーワードがあればすべて抜粋

 回答頻度が最も高かった『自分の気持ち、自分自身や人間への気づき』としては、「楽しく参加できた」「すべてが新鮮」「心が洗われた」「清々しい感動」「とてもすっきりとして、温かい気持ち」「このところ味わえなかった爽快感」など、この場を素直な気持ちで純粋に楽しんでもらえたことを表すコメントが多く見られました。
それと同時に、即興による劇を初めて見ての不思議な感覚や、自分自身を前向きに受け止められたことによる気づきの声が寄せられました。

 また、『他者との関係性』については、「受け止めてもらった、そして受け止めた」という他者と共感し合える喜びや、「人の気持ちに寄り添うつもりでいたら、自然と涙が出た」「傾聴以上に相手の気持ちを察することができた」という他者の身になって分かち合えた経験が語られました。
後述するアンケートの設問2でも、「泣いた」「泣けた」などのコメントが複数寄せられており、感情移入を伴うかなり深いレベルでの交流があったことが伺えます。

 このような普段以上の相互理解の経験によって、この数時間をともに過ごした人との関係性を「今までよりも近い存在」「他人とは思えない絆」と感じるまでになっていました。

 その結果、プレイバック・シアターの『体験・手法についての考察や感想』として、「強烈に自分らしさを取り戻せる手法」「自分を無にして演じることは、自分を“素”にすることになる」「自分も他者も許すことができる」「安心して相談しあえる、対話を生み出す環境づくりに役立ちそう」などのコメントが寄せられたのでしょう。

 なぜこのように、非常に素直でオープンな心の通い合いが実現できたのでしょうか?一つには、参加者の属性が“社員教育企業に勤める有志”だったことによる、彼らの参画意欲やレディネスの高さがあることは否めません。

しかし、それに加え、今まで説明してきたようなプレイバック・シアターのリチュアル(枠組み)があったからこそ、テラー=参加者全員が守られ、お互いを尊重し合える安全な環境を生み出すことができたといえます。
今回は、それらの相乗によって、より大きな効果がもたらされたのではないでしょうか?

 つまり、多様性を尊重し、あるがままを受け入れる枠組みの中でともにウォーミングアップしていくプロセス、他者の気持ちに寄り添えるだけのニュートラルな状態(自分へのこだわりを外して相手をまっすぐ見られる状態)に入っていくプロセスがもたらした効果ということです。

 アンケートの設問1の回答からは、上記のようなプラス面の成果がつかめた一方で、日常社会への警笛を鳴らす貴重な示唆も得られました。それは、ワークショップで味わった、普段なかなか感じ得ない親近感や一体感から転じて、「日頃他者の気持ちを感じることが難しくなっている」という危機感、また、「機会を与えられれば、相手の気持ちを感じられることがわかった」「失われた感性が戻ってくるかもしれない」などの希望を表すメッセージです。

 これらのメッセージが象徴しているのは、日頃の(とくに企業の中の)コミュニケーションがいかにタスク(What to do, How to do)中心になってしまっているかです。また、その結果、それを遂行する人、それを被る人たちがお互いの気持ちを通わせることがいかに難しい社会になってしまっているかということです。

 そこに浮かび上がってきたのは、効率を重んじるあまり、一歩踏み込むことを敬遠し、“波風を立てない”“キレイに済ませる”“早く片付ける”ことが優先される人間関係、あるいは、個人情報保護の名のもと、必要以上にお互いのバックグラウンドが見えづらくなった人間関係です。
このような状況にあっては、アンケートでコメントされた「安心して相談しあえる、対話を生み出す環境」など、なかなか自然には生まれづらいものです。

 このような考察を通じて、プレイバック・シアターは、より人間らしいコミュニケーションを促進するための“安全な土壌づくり”に貢献できる、一つの有効なアプローチ方法であることを強く感じました。

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(2)一番印象的だったこと
設問2:今回のワークショップで、あなたにとって、一番印象的だったことは何ですか? (自由記入形式)

 次に参加者に聞いたのは、ワークショプで一番印象に残っていることでした。具体的にどのような事柄が彼らの気持ちを揺さぶったのかを確かめたかったからです。その結果、表8にまとめたような回答が返ってきました。

【表8:ワークショップで一番印象的だったこと】

回答傾向

主な内容

回答数

即興劇の再現性

過去の話が鮮明に再現されること、結構簡単に当時の気持ちに戻れる凄さ

9

追体験

過去を思い出し泣けた、三人で泣いた、他者の経験が過去の自分と重なった

8

自己開示性

オープンになれた、伸び伸び自分を解放できた、自分を知ってもらう良い機会

4

自己客観視

幼少の頃を客観的に振り返れた、過去を再び見ることで新たな気づきを得た

3

その他

 

3

※アンケート集計結果の詳細は、巻末の参考資料6を参照
※自由記入のコメントすべてからキーワードを抜粋し分類、1人のコメントに複数のキーワードがあればすべて抜粋

 最も多かった回答が、『即興劇による再現性』です。「とてもリアリスティックで鳥肌が立った」「役者が語り手の話を聞いただけで上手に演じていた」「プロによる舞台のどれとも違う自然さ」など、プレイバック・シアターならではのリアリティを強く感じるコメントが目立ちました。

 なぜ、プレイバック・シアターの劇は、このように現実性を帯びて受け入れられるのでしょうか?理由の一つには、フィクションではない誰かの実体験のストーリーを扱うからだと思います。
しかも、その主人公が今、ここにいる仲間の一人であることにより、単なる伝記やドキュメントドラマという所詮他人事ではない、極めて身近なものとして受け止められるからではないかと思います。

 主人公であるテラーが生の言葉で自由に気持ちを語り、それを受け取ったアクターたちも、即興ゆえに、素の自分の奥底から湧き出てくるエネルギーに任せて表現して返すという、一切の虚構を絶ったプレイバック・シアター独特の構造。
シナリオもなく、監督もいない舞台であるからこそ、テラー、アクター、観客一人ひとりの心のうちにスポットライトが同時にあてられ、時空を越えた気持ちの分かち合いが形成されるのではないでしょうか?

 次に、多く寄せられた回答は、『追体験』に関するものでした。「過去を思い出し、泣けた」「涙がとめどなく湧いてきて、純粋な心もまだ失っていなかったんだという嬉しい気分」などのように、自分の過去の一時をもう一度経験したような気持ちに浸たった人もいれば、「仲間の“大切なもの”の役をして、涙がとまらなくなってしまった」「三人の持ちまわりの寸劇に感動し、三人で泣いたこと」「劇が私の過去の姿とダブるような気がした」などに見られるように、他者の経験に感情移入したり、他者と自分を重ねて感動したりした人もいました。
これらは、まさに、プレイバック・シアターの即興による再現性の効果によるものといえるでしょう。

 その他には、『自己開示性』 『自己客観視』に関する回答もあげられました。

 『自己開示性』については、設問1の考察で触れたような、プレイバク・シアターの枠組みによる安全な環境の恩恵といえるでしょう。

 『自己客観視』については、『追体験』による気づきの効果といえると思います。つまり、過去のある場面を、その後成長した今の自分の価値観で追体験してみることで、そのとき感じることができなかった新たな気持ちが芽生えたり、新しい発見ができたりするのです。
設問1に書かれた「過去の経験を前向きに受け入れられる」というコメントは、まさに、自分の過去を新しい解釈のもと受容できたことを表すものでしょう。

 このような考察を通じて、出来事の解釈に唯一絶対の答えはなく、それを見る人の“見方”“受け止め方”でいかようにも変わるものだということにあらためて気づかされました。
同時に、より良いコミュニケーションのためには、自分の見方(価値観)だけで決めつけず、相手の見方、受け止め方に関心を持ち、それを相互に確かめ合っていく“多様性の受容”がとても大事だと感じました。

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(3)プレイバック・シアターの認知度
設問3:あなたは、プレイバック・シアターを知っていましたか? (選択形式/「その他」を含む6項目から該当する回答を選択)

 続いて、参加者のバックグラウンドとして、プレイバク・シアターをどの程度知っていたかを確認しました。

結果は、グラフ1のとおり、
7割の人が「知らなかった」、「名前は知っていた」程度の人も合わせると8割以上の人が中身を知らなかったということがわかりました。

 これにより、プレイバック・シアターは、初心者でも十分に味わい深く、お互いの気持ちを分かち合うことができる手法であることを確認できました。

【グラフ1:プレイバック・シアターの認知度】
プレイバック・シアターの認知度

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(4)ワークショップへの期待
設問4:今回のワークショップへの期待は何でしたか? (選択形式/「その他」を含む6項目から該当する回答を選択/複数回答可能)

 認知度と合わせて確認したのは、参加者それぞれがどのような期待をもってワークショップに参加したのか、そして、それは、どの程度満たされたのか、ということでした。

 まず、設問4で、期待の中身を明らかにしました。その結果は、グラフ2のとおりです。

 このように、今回のワークショップでは、新しい体験をしてみよう、どんなものかを試してみようという期待が半数を占めていたといえます。
また、その体験によって、新たな自己発見や気づきがあることを期待していた人も24%ほどいました。

残りは、スキルアップ、研究活動などで、「その他」を選んだ人のコメントは、「新しいものへの期待」ということでした。

【グラフ2:ワークショップへの期待】
ワークショップへの期待
※回答者数17名、グラフは、複数回答の累計

 これにより、今回の参加者は、あまり先入観を持たず、そもそも、オープンな姿勢でやって来ていたことが推測できました。この前向きな参画姿勢が、さきほど見られたような深い気づきや分かち合いをさらに促進したのでしょう。

 したがって、今後、企業でプレイバク・シアターのワークショップを開催するときは、参加者がいかに先入観を持たずにリラックスして臨めるかに配慮した運営が好ましいといえるでしょう。

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(5)期待に対する満足度
設問5:期待はどの程度満たされましたか? (選択形式/5項目から該当する回答を選択+理由についての自由記入形式)
続いて、設問5では、先ほどの期待の満足度を確認しました。その結果がグラフ3です。

 このように、「たいへん満足」という65%を含む、参加者全員が期待を満たされたと感じる喜ばしい結果となりました。

 その理由のコメントとしては、「今まで感じたことのない達成感」「温かく受け入れられた満足感」「自分を上手く表現できるようになった」など、『自己肯定感、自己効力感』を感じている状況や、「新しいファリテーシション研究のつもりでしたが、入りこんでしまった」「プレイバック・シアターの力を感じることができた」など、体験の深さに言及する声が寄せられました。

【グラフ3:満足度】
ワークショップへの期待

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(6)日常への活かし方
「設問5」で「たいへん満足」「満足」と回答された方にお聞きします。得られたことは、あなたの日常のどのような場面でどのように活かせると思いますか? (自由記入形式)

 設問6では、満足した人たちから、その体験を日常生活でどのように活かせると感じているかを聞きました。その主な回答は、表9のとおりです。

【表9:日常への活かし方】

回答傾向

主な内容

回答数

他者尊重・相互理解

相手の気持ちになって話を聞く、肌で感じとる、相手の感情をとらえる、
相手がわかる表現を心がける、理解し合う努力を諦めない

12

自己客観視・内省

自分のあり様や存在を再確認できる、自分を客観的に見ることが少し楽になる、自分の行動を知らずに律している自分の無意識界に気づく

6

多角的視点の獲得

感性を活かして想像すれば新たな発見ができる、複眼的にとらえられる

3

自己開示の促進

演じる、語る自己開示によりポジティブに物事をとらえられる

1

その他

日頃の会話の話題の一つ

2

※アンケート集計結果の詳細は、巻末の参考資料6を参照
※自由記入のコメントすべてからキーワードを抜粋し分類、1人のコメントに複数のキーワードがあればすべて抜粋

 最も多かった回答は、『他者尊重、相互理解』に関する声でした。
それは、相手と言葉を交わすという目に見えるコミュニケーションをさすのではなく、相手の言葉の奥にある、相手の気持ち、感情の動きを肌で感じ合ったり、共感し合ったりするという、もっと深いレベルのコミュニケーションをイメージさせるコメントでした。

 これは、設問1や設問2で触れたような、“より人間らしいコミュニケーション”や“追体験”により得られるような共感性を称賛する姿勢といえるでしょう。それをもっとも表しているコメントの一つを紹介して、この設問をしめくくりましょう。

 「タスク中心の人間関係に温度と色を与えることを、参加者以外の人とも共有したい。」

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(7)ワークショップのタイトルについて
設問7:今回のワークショップのタイトル「ファシリテーションスキルアップ・ワークショップ」は、内容にあっていると感じますか?
(選択形式/5項目から該当する回答を選択+理由と代案についての自由記入形式)

 次に、ワークショップのタイトルについて感じた印象を確認するとともに、今回の経験から、よりふさわしいタイトルのアイデアを募りました。

結果は、グラフ4と表10のとおりでした。

【グラフ4:タイトルの印象】
ワークショップへの期待

【表10:ワークショップ・タイトルの代案】

回答

主な回答理由

代案のキーワード

とてもあっている
あっている

感性を活用し一つのことから多くのことを導くから、参加者全員が主役と感じたから

傾聴、一体感創出、
双方向コミュニケーション

どちらともいえない

「スキルアップ」にすぐ身に付くイメージがある、
気づきの場であると感じたから、
ファシリテーターを目指すシリーズの初回ならOK

演じることを通じて・・・、
自分の感情を見つめる、他者の感情に気づく、シンクロニシティ

あまりあっていない

むしろチラシの説明文に大切なワードがたくさん入っていた、これをスキルとすると違う
固定化せず、対象者によって変えたらよい

自己発見と他者理解セミナー

※アンケート集計結果の詳細は、巻末の参考資料6を参照
※自由記入のコメントすべてからキーワードを抜粋し分類、1人のコメントに複数のキーワードがあればすべて抜粋

 今回のワークショップのタイトルを「ファシリテーションスキルアップ・ワークショップ」としたのには、私なりの理由がありました。

 まず、企業内での集客を考えたとき、従来、企業研修で扱われてこなかった、「感性」とか「ひらめき」などの抽象的かつ心理的なものに対する受け手の反応が想像しづらかった背景がありました。
そこで、昨今教育業界でブームになっている「ファシリテーション」にやや強引にひっかけてセットアップしたというのが理由です。

 ただ、強引とはいえ、「ファシリテーション」という言葉には、予めプログラミングされたことを執行するというよりも、“場を見て、その場に応じて対応し、グループをゴールに導いていく”という即興的な意味合いが多分に含まれています。
よって、プレイバック・シアターは、ファシリテーションと何らかの共通項があるというのが私の見解で、一応の意図をもってタイトルに掲げたわけです。

 しかし、アンケートの結果から、特に初心者にとっては、このタイトルはそぐわないことがよくわかりました。
逆に言うと、プレイバック・シアター本来の良さ(感性とか、双方向性とか、一体感とか、シンクロニシティとか)をより評価してもらえたことの表れであり、ワークショップ本来のねらいは達成できたことを強く感じ、嬉しく思いました。

 さらに嬉しかったのは、このタイトルが「あっている」という数少ない回答をくれた人が、その理由について「参加者全員が主役と感じたから」と書いてくれたことです。即興の対話や劇において、個々が協力しあってオファーをかけあい、それを感じ取りながらお互いの間合いを保ちつつ、一つのゴールに向かってともに進んでいくプレイバック・シアター。
「参加者全員が主役」というのは、その本質を見事に言い当てた言葉だといえるでしょう。

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(8)企業における活用について
設問8:プレイバック・シアターは、企業における研修や組織開発の手法として活用できると思いますか?
(選択形式/5項目から該当する回答を選択+理由についての自由記入形式)

 さらに、設問8では、企業での活用の可否について、ズバリ聞いてみました。

その結果は、グラフ5のとおりで、なんと、「十分活用できる」が41%、「条件つきで活用できる」が35%、つまり、75%以上の参加者が何らかの形で活用できると回答しました。

その理由としては、
次のページの表11のようなコメントが寄せられました。

【グラフ5:企業での活用】
ワークショップへの期待


続く設問9では、企業で活用する場合のテーマや活用方法の具体的なアイデアを募り、表12にまとめています。ここでは、表11と表12を合わせて見ていきましょう。

【表11:企業で活用できる主な理由】

回答

主な回答理由

十分活用できる

自分の価値観を深掘りするときに活用できそう
メンバーの「人となり」を深く理解し、相互の信頼関係を構築できそう
受け止め合いを自然に行える場なので、実施後の個々の関わりに良い影響を与える
感情を揺り動かされる瞬間を共有することで、組織の一体感を生み出せる
チームビルディング(新しいチームの立ち上げ時の警戒心や距離の撤廃に)
部門を越えた横のつながりをつくる(コラボレートする意思を生み出す)
多様性の理解が進む

条件つきで活用できる

○コミュニケーションの活性化施策として利用できそう
△受講者のレディネスに影響される
△ある人にとっては過去のシーンを思い出すことが負担になり危険な場合もある
△対象と運営上の制約(時間、レイアウト、ファシリテーターの確保など)
△効率性重視、目に見える成果重視の企業では、目的の設定と合意が重要

どちらともいえない

面白いが、具体的に企業研修に結びつくかはわからない
送別会やチーム力向上などで効果がありそう

※アンケート集計結果の詳細は、巻末の参考資料6を参照
※自由記入のコメントすべてからキーワードを抜粋し分類、1人のコメントに複数のキーワードがあればすべて抜粋



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(9)企業で活用するときのテーマや方法
設問9:「設問8」で「十分活用できる」「条件つきで活用できる」と回答した方にお聞きします。もし、あなたがプレイバック・シアターを企業で活用するとしたら、どのようなテーマ、活用方法が考えられるでしょうか?自由な発想でご記入ください。 (自由記入形式)

表12が、企業でのテーマ、活用方法のアイデアです。

【表12:企業でのテーマ、活用方法】

回答傾向

主な内容

回答数

自己理解

自己理解

自己開示を自然に行えるようにする「自己の殻破り」
「視点を変える」ということに関連づけて実施できる

3

問題解決

葛藤場面の解決を考えるなど、テーマを方向づけたら活用できそう

他者尊重

相互理解

コミュニケーション系のテーマには広く活用できる
お互いを知るための手法の一つとして、質問力強化の方法として

7

チーム
ビルディング

日頃から、意志・考え・想いを表現し、理解や刺激により成長できるチームづくり、組織活性化(チームワーク醸成)
組織力強化のファミリートレーニングでじっくり実施

役割認識

マネジャー研修

キャリア研修
マネジャー研修の導入時に「嬉しかったこと」「苦しかったこと」をストーリーで、チーム会議/上司部下関係などが上手くいかない要因を客観的に振り替える

5

営業
(顧客との
関係性向上)

お客さまとの営業場面や営業チームの運営場面などあらゆる設定が可能、営業の人間関係構築力強化
営業研修の導入時に上手く行かなかった事例を取り上げ振り返ってから本題に

3

新入社員

自己開示や他者認知の重要性の気づきを得る
入社後少したってからの理想と現実とのギャップ(葛藤)を共有する

2

自職場外で

人事の研修ではなく、福利厚生の一環でレクリエーション的な行事
普段仕事をしない人同士が効果をより発揮させる

3

※アンケート集計結果の詳細は、巻末の参考資料6を参照
※自由記入のコメントすべてからキーワードを抜粋し分類、1人のコメントに複数のキーワードがあればすべて抜粋

 前の設問で、「十分活用できる」と回答した7名は、たった2時間余りのワークショップで自分たちが感じたさまざまな心理的作用に着目し、それが企業でも効力を発揮するものととらえています。

 「自分の価値観の深掘り」に適するという判断から、「自己の殻破り」とか「葛藤を乗り越える」などの『自己理解』への活用が想起されています。また、「人となりを深く理解」できたり、「自然な受け止め合い」「組織の一体感」を生み出せたりするところから、『相互理解』や『チームビルディング』などの活用に向くと感じている意見も多く見られました。

 さらには、マネジャーや営業(マネジャー/担当者)など、ある特定の役割に対する研修にも有効という意見が見られたのも興味深い結果でした。特に、研修の導入時などで部分的にプレイバック・シアターの「ストーリー」を適合することによって、過去の自分を客観視させ、その後の研修の動機づけにつなげられそう、という声が複数ありました。

 これらの意見は、設問1や2で寄せられていた、数多くの率直な感想や印象に支えられるものであり、もしあのような体験なしに何らかの文献を読んだだけだったとしたら、これほどの確信には至らなかったことでしょう。

 一方で、表11の「条件つきで活用できる」という回答において△印をつけたコメントに見られるように、活用の可能性は認めつつも、いくつかの懸念があることが指摘されていました。これらがクリアできたら活用可能という意志表示であるととらえられました。

 これらの懸念点については、次の設問で、企業で活用する場合の阻害要因を聞いていますので、それと合わせて見ていきましょう。

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(10)企業で活用する場合の課題と阻害要因
設問10:プレイバック・シアターを企業で活用する場合の課題や阻害要因として、思いつくことがあればお聞かせください。
(自由記入形式)

 いくら効果が高く、新しい可能性を秘めた手法であるとしても、企業で活用する際に想定される課題や阻害要因を放置しておけば、誤解が生じたり、効果が半減したり、はたまた、かえって危険を伴うことすらあるかもしれません。

 そこで、それらについての声も確認しました。表13がその結果です。

【表13:企業で活用する場合の課題と阻害要因】

回答傾向

主な内容

回答数

参加者
自身

自己開示への抵抗感

自己開示が苦手な人にどこまで求めるかのさじ加減
「観られる」≒「評価」という枠組みからのアレルギーがあるかも
お互い知った仲間同士だと少し恥ずかしいかも
中高年男性や上位役職者は、参画が難しそう

7

参加者のレディネス

参加者の成熟度や参画意識に左右されやすい
現状に不満な人が参加する場合、職場の人の参加は難しそう

4

カタチへの過度な拘り

若い方を中心に「ウケ」を狙った仕込みに懲りすぎる可能性
若者中心に持つ「答(オチ)がない」物語への違和感への対処

2

主催者

主催者(顧客)の理解

名前が演劇を想起させるので企業での実施と結びつきにくい
効果と意義が体験無しには理解しづらく、どう説得するか
事務局の担当者も参加する勢いがないと心が開示されない

7

運営者

運営側の習熟度

コンダクター、アクターのスキルが高くないと効果が半減
オープンマインドになるまでのアイスブレイクセッションの工夫

3

※アンケート集計結果の詳細は、巻末の参考資料6を参照
※自由記入のコメントすべてからキーワードを抜粋し分類、1人のコメントに複数のキーワードがあればすべて抜粋
前の設問で「条件つきで活用」と回答した人の懸念点は、表13でほぼカバーされたので、これらの阻害要因について考察します。

 最も多く出された懸念事項は、『参加者自身』に起因するものでした。自己開示や自己表現が苦手な人や、ネガティブスタンスを持っている人をどう扱うのか、といった問題です。

 特に指摘が多かったのは、中高年男性や上位職者と若者に関するものでした。中高年男性は、その場に入り込むことへの心理的ハードルが高いのではないか、若者は特有の拘りゆえに、変にウケを狙ったり、オチを無理やりつくってしまったりするのではないか、などという恐れでした。

 確かに、今回のような前向きな参加者ばかりだった場に比べて、その手の人が参画するときのほうが分かち合いの難易度は高くなることは事実です。しかし、再度思い出していただきたいのは、プレイバック・シアターの根底に流れているリチュアル(枠組み)です。

 プレイバック・シアターは、無理を強いず、あるがままを受け入れ、多様な感じ方を認め合っていくところから始まります。
ここでは、テラーは、自分の意志に従って、語りたければ語り、そうでなければ語らなくてよいのです。また、語るときにも、自分で調整して語りたいことだけを語ればよく、たとえ中途半端であっても、その人にとって意味あるものであればよいのです。

「この人にとって、今の状態、今の言葉はどういう意味を持つのだろう?」と相手になりきって感じてみることから何か新しいものが見えてくるのではないでしょうか?

 プライドが邪魔して自己を開示できない人の、そういうあり方を尊重するということ、ネガティブなものを抱えたまま来てしまった人の、そうならざるを得なかった状態をそのまま受け入れるということ、照れ隠しからウケを狙ったりオチをつくったりして本来の分かち合いに目が向かない人の、その奥にある気持ちを感じ取って返してあげること、そこが相互理解の第一歩ではないでしょうか?

 このような人たちの参画を少しでもやさしくするために行われるのがウォーミングアップです。ですから、もし、ウォーミングアップの時間を十分とれないとすると、それが、一番大きな阻害要因かもしれません。

 私の意見としては、『参加者自身』の問題よりむしろ、『主催者』の問題(意義の理解と目的の設定)や『運営者』の問題(運営者のスキル)のほうがさらに大きな阻害要因になり得るのではないかと感じています。

 ワークショップ(セミナーでも、研修でも)の目的をどのように置くか、参加者にとってどのように意味を持たせて参画を促すか、これによって、参加者の初期の参画姿勢はかなり左右されるように感じます。
また、その場の温度(参加者の緊張度合、自己開示度合、モチベ-ション)によってウォーミングアップの時間と内容を臨機応変に変えながら適切な場の進行を行うコンダクターの習熟度によっても、参加者の反応は変わってくることでしょう。

 このことを考えると、アンケートでも指摘されているとおり、まず、企業の主催者にプレイバック・シアターの意義を正しく理解してもらうことが大前提として重要になるでしょう。
昨今、企業で効率性重視(成果への直結)や論理性重視の風潮が強まる中、ともすると、「生ぬるい」「お遊び」との誤解を招きやすい点をどう克服するか、また、人間関係という目に見えにくく、中長期的に醸成すべきテーマへの理解をどう得てくかがポイントといえます。

 一つの解決の鍵は、主催者側のキーマンや関係者自身にこの場を体験し自ら味わってもらうことだと思います。誰かのコメントにもありましたが、経験なしにはとうてい理解できない(=感じ得ない)何かがあるのですから。

 最後に、『運営者』の問題にもう少し触れますが、運営者は、習熟度もさることながら、人数確保という物理的阻害要因があることを忘れてはなりません。特に初心者の参加が多い場合は、今回のように、コンダクター以外に、気心の知れた運営スタッフが複数名必要となります。

 経験値をもっているスタッフが参加者に溶け込み、率先してアクションを見せることで、初心者であっても難なく意図を理解し、速やかに同調することを可能にするからです。どんなに熟練のコンダクターでも一人きりでは、グループへの影響力が限られ、運営は困難となります。

 逆に、複数の運営スタッフ(コンダクターも含めて)が確保でき、彼らの息が合ってこそ、他の参加者が放つ多様なエネルギーと調和して、より良い一体感を醸成しやすくなるでしょう。

 以上のように、さまざまな阻害要因があることは否めませんが、それが何かをしっかりと見極め、誠意をもって対応していくことで、必ずや、それらを乗り越えることができると信じています。

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(11)今後の参加希望
設問11:今後もプレイバック・シアターに参加してみたいですか? (選択形式/5項目から該当する回答を選択)

 続いて、設問11では、参加者自身が今後もプレイバック・シアターに参加したいと思っているかどうかを確認してみました。

 結果としては、グラフ6のとおり、「社外ワークショプに参加したい」が40%、「社内ワークショップに参加したい」が35%で、合わせて75%の人がまた参加したいと思っていることがわかりました。さらには、15%に相当する3名は、「運営スキルの習得」にも興味を示していました。

  “論より証拠”ではないですが、今までアンケートで収集して来た参加者の意見は、この積極的な姿勢からして、決して形式的な回答や建前ではなく、彼らが本心からこの場に動機づけられ、この場を欲していることを物語っています。

【グラフ6:今後の参加希望】
ワークショップへの期待
※回答者数17名、グラフは、複数回答の累計

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(12)企画・運営についてのご意見、今後へのご要望
設問12:今回のワークショップの企画・運営についてのご意見、または、今後の企画へのご要望があればお寄せください。 (自由記入形式)

 最後に、今後の企画、運営への意見、要望を確認しました。

 「企画の斬新さに純粋に喜んでいる」「刺激ある企画をありがとう」「スキルではないファシリテーションについて考えることができた」などの感想とともに、「手ぶらで参加できるのがよい」「実施の時間帯・曜日・自主的な参加を促す募り方がGOOD」など、開催条件に関する声がありました。

 また、次回への要望も複数寄せられましたが、一番多かったのは、時間に関する声でした。「もう少し時間が欲しかった(演じられたら効果高まる)」「短い時間で残念、今度じっくり味わいたい」「もっとやりたいという人は少なからずいたのでは?」など、意欲的な要望ばかりでした。

 今回のワークショップに参加した17名の皆さんから寄せられたアンケートは、本当に貴重な声でした。メッセージをじっくりと読めば読むほど、自分の存在感を確かめられる、人間らしいつながりを促進できるプレイバック・シアターの価値の高さをあらためて感じずにはいられませんでした。

 読んでいるうちに、「もっと自分のことを話したい!」「もっと誰かに理解されたい!」「もっと受け止められたい!」というみんなの心の声が聞こえてくるような気がして、それは、私自身の奥にある叫びと一体になっていきました。
多忙な日々にどっぷりとつかりながら、誰もが時間に縛られない、人間らしい心の通い合いを求めているのだと思います。

 「一人ひとりの多様な“持ち味”“らしさ”を認め合い、信頼しあえる人間関係をつくるという、企業研修が本来目指しているねらいとプレイバック・シアターのそれは何ら違いがないのではないか?」 

ワークショップの企画段階で私の頭に浮かんだこの問いは、企業における実践とその考察を通じて、やはり違いはないものと確信するに至りました。

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目次案内
  第Ⅰ章 プレイバック・シアターとの出会い
   プレイバック・シアターとの出会い / プレイバック・シアターってどんな劇?

  第Ⅱ章 プレイバック・シアターの基礎知識
   プレイバック・シアターの成り立ち / バラエティに富んだ表現手法 / リチュアル(枠組み) / 肝心要のウォーミングアップ

  第Ⅲ章 企業における、プレイバック・シアターの実践
   実践リーダー養成プロジェクト / 実践活動の企画 / 集客活動 / 運営準備 / 当日の流れ

  第Ⅳ章 プレイバック・シアターの可能性 ~ プレイバック・シアターは企業に何を提供できるのか? ~
   企業での実践を終えて(参加者の反応と効果) / プレイバック・シアターに私が託したいこと / おわりに

  - 参考資料 -
   1.実践活動の企画書 / 2.チラシ-#1 (グリーン、片面) / 3.チラシ-#2 (ピンク、両面)
   4.実践記録 / 5.参加者用アンケートフォーム / 6.アンケート集計結果

  - 参考文献 -
   ジョー・サラ 著 『プレイバック・シアター 癒しの劇場』 (社会産業教育研究所、1997年)
   プレイバック・シアター研究所(羽地朝和、太田華子) 実践リーダー養成プロジェクト 合宿記録
   NPO法人プレイバック・シアターらしんばん アクティングコース ハンドアウト

Copyright 2006 © プレイバック・シアターらしんばん. All rights reserved.
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