ワークショップとパフォーマンス

著者:(株)プレイバック・シアター研究所 所長 羽地朝和
掲載:プレイバック・シアター実践リーダー養成プロジェクト(Lプロ)資料

世界中には実に様々なプレイバック・シアターのやり方がありますが、
基本的な実施スタイルとしてはワークショップとパフォーマンスの2通りのやり方があります。
ぞれぞれ、特徴や得られることが異なるので、実施条件やねらいによって使い分けたり、ふたつを組み合わせて行ないます。
両者の特徴について簡単に説明しましょう。

ワークショップ スタイル
 原則としてコンダクターがひとりで運営する。役者も参加者の中から選びます。よって、役 者として表現する為のウォーミングアップが必要となります。又役者としての表現をすること に慣れていない人が舞台上で戸惑わないように、コンダクターはストーリー(語り手が語るそ の人の出来事)をなるべく具体的に聴きだし、ストーリー展開や場面設定を明確に指示して、 慣れていない役者が表現をしやすようなコンダクティングをこころがける必要があるでしょう。
 ワークショップの場合、人数は大勢はあまり好ましくありません。私のこれまでの経験では、 ワークショップ スタイルの最小人数はコンダクターも含めて4名(語り手1名、役者2名)で、 最大で30名ぐらいでしょう。実施場所も身体運動をともなうワークショップが行なえる広さと条件があれば十分です。しかし、その場合でもストーリー(即興劇)を行なう時は、舞台と観客席の境界をはっきりさせることがPTのリチュアル(枠組み)のひとつです。

このワークショップスタイルでプレイバックを行なう時も、スタッフが何人か一緒に入ってもらって行うこともよくあります。その場合は一番最初のストーリーの役者はスタッフが行います。そうすることによって、どのように劇を進めるのかをまず最初に示すことができます。
 実施時間については、私が現在実施しているワークショップの中で最も短い時間で行ってい るのは90分です。これクリニックのデイケアとして行っているケースで、それ以上の時間がとれないといういたしかたない理由があるからで、本来なら自己紹介、ウォーミング アップ、ストーリー、クロージングに十分な時間(短くても3時間ぐらい)が必要です。通常の私の公開のワークショップは、10:30から17:00の5時間半で行っています。また、合宿形式で2泊3日で行うこともあります。
 ワークショップで行うプレイバックの始めと終わりの基本的なスタイルは、椅子をサークル (和)形式に並べ、全員が座ります。このサークルスタイルでは、参加者全員が同じ立場、視線でお互いを見渡すことができます。通常ワークショップでは、始めにこのサークルの形で自己紹介をして、ワークショップの最後は感想やコメントをひとりひとりが述べて、そのグループは解散します。このサークルの構造が、ワークショップスタイルのプレイバック・シアターをある意味で象徴しているといえます。まず、閉じたグループの中なので、お互いに誰がいるのかを知ることができます。そして、内向きの閉じられたグループなので、外から守られ、安心した空間が生まれやすいといえるでしょう。その安心できる仲間意識が生まれることによって、グループが持っている相互に援助し合う力がいかされやすくなるのです。


パフォーマンス スタイル

 パフォーマンススタイルのプレイバック・シアターは、コンダクター・役者・ミュージシャンなどからなるパフォーマンスチームで実施します。観客の中から語り手をつのり、語り手が語ったストーリーを舞台上でパフォーマンス形式のプレイバックで表現し、観客と語り手に見せるのが、基本的なスタイルです。PTではこのパフォーマンス チームのことをカンパニー(劇団)と呼んでいます。したがって原則的に参加者は役者にはなりません。ただし、パフォーマンスが進み、場の一体感が生れて観客の参加意欲が高くなったところで観客の何人かにも舞台にあがってもらい、一緒に役者をやってもらう audience upというテクニックも、パフォーマンスのやり方のひとつとしてあります。私のグループは好んでこの audience upを行います。

 チームは日頃から練習を積み自分達の表現のやり方やスタイルを持っており、表現技術とチームワークが必要です。また、パフォーマンスの前には十分なウォーミングアップを行ないます。
 コンダクターは、ストーリーを聴く際になるべく必要最低限の聴き方をして、ストーリー展開や構成は役者に委ねます。場合によっては、配役も登場人物全員を決めないで、テラーズアクター(語り手役の役者)のみを決めて、あとは役者の自主性、創造性に任せて役者自らが役を決めることもあります。
 場所は舞台と観客席が明確に分かれていて、演劇やコンサート用の会場などで実施することもあります。舞台と観客席の境界線は物理的にハッキリとしていますが、その間に心理的な距離が生じることは好ましくありません。舞台と観客席の間に境界線がありながら、どう一体感をつくりだすかがパフォーマンスのねらいのひとつです。

 人数は大人数でも可能で、逆に観客が少ないとやはりパフォーマンスですので寂しく感じるかもしれません。会場の広さや設備によっても人数は制限されます。会場の条件にもよりますが、人数が50名を超えるとマイクなどの音響設備などを使用しないと、語り手や役者、コンダクターの声が聞き取りにくくなります。これまで私が行ったパフォーマンスでの参加最小人数は10名ぐらいで、この場合も前半パフォーマンス、後半ワークショップというスタイルをとりました。最も多い場合で300名ぐらいの観客に対して行ったことがあります。

 時間は短くてワンステージ30分、長くても90分ぐらいです。プレイバック・シアターでは、ある意味で全員がその場に集中せざるをえません。ですから、私の経験では観客そしてパフォーマンスチームがひとつのステージに集中するのは90分ぐらいが限度のようです。パフォーマンスでは終始、観客席は舞台を向いて固定していて、舞台上のパフォーマンスチームは観客に向って表現をします。両者は対面する形でその場に存在します。物理的な構造上で両者は一緒になることはありませんが、プレイバックを通して心理的な一体感が生れます。
対面した構造が緊張感と一体感というパフォーマンスの醍醐味をうみだします。

 実際にプレイバックを行う時には、ワークショップとパフォーマンスを組み合わせて行うことも多くあります。これまでのべた両者の違いを簡単に整理すると次のようになります。

ワークショップとパフォーマンスの比較

上で集団の構造としてあげた「サークル」と「対面」について少し説明をしたいとおもいます。これはワークショップとパフォーマンスの集団の構造の特徴を表しています。そして、参加者が得られる事の違いにも関連しています。

 サークルというのは、参加者は立場が固定していなくて、その集団にいる全員が共に同じ立場であることを表しています。つまりワークショップでは、参加者はいろいろな役割をとります。ある時は語り手、ある時は役者そしてある時は観客の立場になることができます。ある時は役者として語り手の為に精一杯の行動(表現)をすることもあれば、語り手として他者に自己をゆだねることもあるのです。そして観客として、人が自己をゆだね、ゆだねられる場をしっかりと見守ることで、直接的には何もしなくとも、そこに共にいるということも経験できます。ここには一方的に誰かが誰かをケアする、ケアされるという関係ではなく、だれもがある時は他者をケアし、ある時はケアされる、という関係があります。(もちろん本来的に、誰かが誰かを一方的にケアをするということはなく、常にそれは相互に行われているのでしょうが)
 特にセラピーとしてプレイバック・シアターを行う場合、他者の為に自分が何かができるということはとても重要な意味を持ってきます。自分が他者にとって役に立つ存在だと実感できることは、私たちが健康に生きていくうえでとても大切な要素のひとつです。特に日頃ケアを受ける立場になることが多い人にとっては、「自分は他者に役立つ存在だ、という実感」を得ることがセルフ エスティームを高めることを促進します。
 ここでのコンダクターの役割は、このようなお互いにケアしあえる場をつくり、その安全をまもり、その場の終わりと最後を明確にすることです。

 一方パフォーマンス スタイルでのPTにおいては、熟練したパフォーマンス チームによる完成度の高い表現を参加者は見ることができます。語り手が語るどのようなストーリーも、チームは芸術的にそのストーリーの本質を表現してくれます。
 語り手にとっては自分の人生のどのような出来事―それがどんなに悲惨で辛い体験であろうと、なにげないひと場面であろうと、最高に嬉しかった思い出であろうと、理解できない不可解な出来事であろうと―プレイバック・シアターを通して、自分の体験を改めて意味ある人生の一幕として見ることができます。そしてそれが舞台上の劇を通して観客が共感や興味を持って見、それが全員に分ち合われることによって、語り手は自分の人生は他者が価値あるものとして認てくれる大切なもの、という実感得られるのです。
 観客にとっても、ある人が語る人生の一場面を通して、自分の人生とそのストーリーとのつながりを感じ、ストーリーを共感している他者とのつながりを感じます。洗練されたストーリーの表現を通して、語り手、観客、プレイバック チームの全員の一体感が育まれるのです。
  ここではパフォーマンスチームと観客は対面した構造になります。役者は語り手や観客の為に精一杯の表現をし、語り手と観客はそれを見る立場になります。ある意味でプレイバックチームは与える側の立場に構造的にはなります。しかし不思議なことに、プレイバックを通して全体の一体感が生れた時、パフォーマンスチームの全員に、参加者からたくさんのものをもらったという実感が湧いてきます。
  パフォーマンスを行うには、日頃からのチームでのトレーニングが不可欠で、精神的だけでなく時間的にも経済的にも負担が多いのですが、それでも私たちの多くがプレイバック・シアターパフォーマンスを行っているのは、きっとこの「たくさんのものをもらった」という実感を得ることができるからでしょう。