「★イメージをプリズムに」の言葉たち
研究所スタッフのくじらです。
書くことをやっているせいか、なにをしていてもまず先に言葉のことが気にかかります。研究所でアートのワークショップに多く関わっていると、どちらかというと「非言語の表現」みたいなところが肝腎とされがちなのですが、わたしが気になるのはやっぱり言葉のことです。
非言語の表現の場にも、当然言葉はあります。最近わたしがとても気になっている言葉をご紹介しましょう。
「二つ並んでいさえすれば、それだけで美しくはなってはしまいますからね」
「ひとつができるのとまったく同時にもうひとつもできる。どちらが早い遅いということはない」
「見て描くことはまったく不可能な相手だから、イメージしか成立しないですよね」
……何について語っている言葉かわかるでしょうか。これらはみな、ワークショップ「⭐️イメージをプリズムに 〜 イメージに光を、そしてバラバラに。」のなかでの講師の画家・田島環さんの言葉です。
一回90分の短めなワークショップで、毎回ひとつのお題や作り方だけを扱います。初回はビー玉を転がして作る絵、二回目は木をお題とした切り絵。三回目が糸に絵具をつけて紙の上をすべらせながら引き抜く糸版画……というふうに、環さんは毎回新しい描き方を提示してくれます。描き方、というよりは遊び方、を教わるようにしてはじまり、オンラインなのでそれぞれの場所で、それぞれがひとつの作業に延々と取り組むわけです。環さんは最初は本当に最低限のやり方しか説明せずに描く時間に入るので、とにかく手を動かしながらつかんでいくしかありません。
小さな絵をつぎつぎ仕上げていくのはマインドフルネスを思わせる作業で、やっているとぼーっとなってきます。作業はおもしろいけれども、目の前のこれが作品かといわれるとわからない。多くの作業が偶然性やままならなさを伴うので、あるゴールに向かっていこうとしてもそうそううまくいかないし、そもそもどこがゴールかもわからない、という調子。
そこへ、ぽつんと聞こえてくるのが、冒頭に書いたような環さんの言葉です。環さんは、描いているわたしたちへの指示や評価ではなく、ただの言葉をぽんとその場に置くように話します。けれどもなにか普遍的なことを話しているよう。当然すぐには飲み込めないのですが、ともかくそれを手掛かりに次の一枚にとりかかる気になります。
そして、くりかえしくりかえし木の形を切り抜いたり、糸を引き抜いたり、太陽を描いたりしているうちに、これは単なる絵の講座ではなく、なにか真理のようなものに近づいていく修行なのでは……という気持ちになったりもします。「二つ並んでいさえすれば、それだけで美しくはなってしまいますからね」といわれたことを、いつか全く関係ない局面ではっと思い出したりしそうな……
そうそう、環さんの言葉といえば、各回のタイトルもかっこいいです。
第一回「赤 美しくままならないライン」
第二回「橙 切り抜かれて切り抜く木」
第三回「黄 なやましげなツインズ」
第四回「緑 イメージを色とかたちに」
第五回「藍 いろいろな‘黒’で描く」
もうお分かりいただけることと思いますが、各回虹の色を一色ずつ辿っています。だったら全七回だと思ったら大間違い。「紫」まで行った後に最後の一回、「colorless/透明」があらわれます。
各回のタイトルといいこのつかみどころのなさ、なんて色っぽい(だじゃれ?)んでしょう!
「⭐️イメージをプリズムに ~ イメージに光を、そしてバラバラに。」はあと三回。各回単発お申し込みも可能です。描く経験はもちろん、個人的には環さんの言葉にふれられる時間として、強くオススメします!
(2021/09/22 向坂くじら)