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企業におけるプレイバック・シアターの実践と考察~ プレイバック・シアターは企業に何を提供できるのか? ~
プレイバック・シアター研究所 主催 実践リーダー養成プロジェクト 第4期 卒業論文
富士ゼロックス株式会社 人事部人材戦略グループ 組織力強化センター 河野 朝子
- プレイバック・シアターってどんな劇? -
この即興劇は、「プレイバック・シアター」といいます。即興劇にもいろんなグループがありますが、「プレイバック・シアター」は、参加者が体験したことを自ら語り、それをその場で誰かが即興で演じる=プレイバックすることにより、そこにいるみんなで分かち合う劇場です。どんな劇場か、その様子を先ほどの劇を例にとってお話してみましょう。
劇の様子に入る前に、プレイバック・シアターに必要な5つの役割について触れておきます。
【プレイバック・シアターに必要な5つの役割】
1.コンダクター:プレイバック・シアター全体を運営するリーダー
2.観客:プレイバック・シアターの参加者であり、劇を観る人
3.テラー:劇の語り手 ※コンダクターが観客から募り、自らそれに応じた人
4,アクター:劇の役者 ※スタッフが演じる場合とテラーが選んだ観客が演じる場合がある
5.ミュージシャン:劇中の効果音や音楽を即興で奏でる人
この日は、コンダクターが、会場の観客からテラーを募るところから始まりました。
コンダクターは、舞台の左端にあった椅子に腰かけ、会場に穏やかに語りかけます。コンダクターの奥のほうには、ハンガーのようなものが置いてあり、それには、原色やパステルカラー、金や銀など、明るい色から暗い色までさまざまな色の薄い布がかけられています。どうやら、劇の小道具で使うものらしいです。
舞台の中央はぽっかり空いていますが、その後方には、3人のアクターが観客のほうを向き、横一線に並んで椅子に腰かけています。
テラーが出てくるのをコンダクターと一緒に静かに待っています。
舞台の右端、ちょうどコンダクターと左右対称の位置には、ミュージシャンが1人います。
ミュージシャンの前には、小さな机があり、その上には、小さな鉄琴、ハモニカ、カスタネット、蛙の形をした外国の打楽器、複数の鈴や笛などがところ狭しと無造作に置かれていて、見ているだけで何やら楽しそうな感じです。
しーんとしていた会場から、やがて1人の男性が手をあげました。
コンダクターは、「ようこそ!テラーの席へ。」
と言って、その男性を笑顔で自分の隣の席に招き寄せます。
他の観客は拍手でテラーを送り出します。
テラーが腰かけて落ち着くと、彼の名前を確認し、穏やかなままテラーに質問をしていきます。
観客は、静かに一部始終を見守ります。 |
【図1:プレイバック・シアターの舞台構造】
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「今、お話したいことは思い浮かんでいますか?」「それは、いつ頃の話ですか?」「ここは、どこでしょう?」
コンダクターは、テラーのペースに合わせてうなずいたり、相槌を打ったり、ときに観客にも目配りしながら、テラーの話を丁寧に聞きいていきます。やや緊張した面持ちだったテラーも、コンダクターの自然なリードに安心したのか、徐々に自分の話に集中し、熱く語り始めました。
場面が決まったところで、コンダクターは、まず、劇の主役であるテラーを演じるアクター(テラーズアクター)を決めていきます。
「では、スズキさんご自身を演じてもらう人を、あの役者の中から選んでもらえますか?」アクターは、テラー本人が選びます。
「その頃のスズキさんを一言で言うと、どんなスズキさんでしたか?」「そうですね~・・・。このときの私は・・・。」
ストーリーが展開する中で、特に重要な人物が登場してくるたびに、アクターをテラーに選ばせ、その役づくりに必要な情報をさりげなく引き出していきます。
「さて、そこで何が起こったんでしょう?」
場面の状況設定と配役がそろったところで、コンダクターは、ストーリーの核心部分を聞いていきます。
「そのとき、スズキさんは、どんな気持ちでしたか?」「想像ですが、このとき、サトウさんは、どんな気持ちだったと思いますか?」
テラー自身の中に残っている印象から、登場人物たちの心境が描き出されていきます。
「さあ、このストーリー、スズキさんのどんな一言で終わりたいですか?」
「うーん、そうですねえ。・・・。おれ、何やってるんだろう?・・・サトウ、ありがとう。・・・そんな感じかな・・・。」
テラー自身がこのストーリー全体について感じている気持ちを一言で表す言葉が紡ぎだされます。
テラーの話がしめくくられたところで、コンダクターは、テラーのストーリーを映画の予告編のように器用に要約し、そして一言。
「見てみましょう!」
とたんに、舞台後方に身じろぎもせず控えていたアクターたちが一斉に立ち上がり、無言のままキビキビと準備にかかります。
ある者は、その役の気持ちを象徴する色の布を1枚身にまとい、ある者は、何かを表す複数の布をまるめて手にし、舞台で、思い思いの位置についてフリーズします。この間、たった15秒ほどだったでしょうか。
チリーン・・・。ミュージシャンが鈴を鳴らしました。これが劇の合図だったようです。主役のセリフと動きで劇が始まりました。
主役の演技に他のアクターが応えるような、絶妙のコンビネーション!お互いの表現が次から次へと重なり合いながら、劇の最後へと辿っていきます。それを盛り上げるように、しかし邪魔にはならないように発せられる効果音。
仕事の山の中で没頭している主役。そこに次から次へと仕事が舞い込むように、主役に横から後ろから押しつけられる、たくさんの布。
それを腕いっぱいに抱えて盲目な状態で階段を駆け降りるシーン。すれ違った同僚の温かい一言。一瞬放心しながら、数歩、歩いて舞台の中央で立ち止まり、ぱっと布を空に放り出してゆっくり落ちてくるのを見守りながら最後の一言をつぶやく主役。
そこでアクター全員がフリーズすると、再び鈴の音。・・・チリーン・・・。
劇が終わり、アクターは全員がその場に立ったまま、「どうでしたか?」とでもいうような表情でテラーをやさしく見つめ返しました。
「スズキさん、どうでしたか?」少し間を置いてから、コンダクターがテラーに感想を聞きました。
テラーは、驚きを隠しきれない様子で、ちょっと頬を上気させて「いやあ、まったく、このとおりでした!ありがとうございます!あのときのことが鮮やかに蘇ってきました。・・・。」
ひとしきり感想を述べ終わると、コンダクターは、言います。「スズキさん、では、この劇は、これで終わっていいですか?」
「はい、いいです。本当にありがとうございました!」劇を終えてよいことを確認すると、コンダクターは、テラーに御礼を言って観客席に返し、アクターとミュージシャンにも御礼を言って、もとの位置に戻るように促します。
これが、ある日の、プレイバック・シアターです。あなたなりのイメージは、できたでしょうか?
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第Ⅰ章 プレイバック・シアターとの出会い
プレイバック・シアターとの出会い / プレイバック・シアターってどんな劇?
第Ⅱ章 プレイバック・シアターの基礎知識
プレイバック・シアターの成り立ち / バラエティに富んだ表現手法 / リチュアル(枠組み) / 肝心要のウォーミングアップ
第Ⅲ章 企業における、プレイバック・シアターの実践
実践リーダー養成プロジェクト / 実践活動の企画 / 集客活動 / 運営準備 / 当日の流れ
第Ⅳ章 プレイバック・シアターの可能性 ~ プレイバック・シアターは企業に何を提供できるのか? ~
企業での実践を終えて(参加者の反応と効果) / プレイバック・シアターに私が託したいこと / おわりに
- 参考資料 -
1.実践活動の企画書 / 2.チラシ-#1 (グリーン、片面) / 3.チラシ-#2 (ピンク、両面)
4.実践記録 / 5.参加者用アンケートフォーム / 6.アンケート集計結果
- 参考文献 -
ジョー・サラ 著 『プレイバック・シアター 癒しの劇場』 (社会産業教育研究所、1997年)
プレイバック・シアター研究所(羽地朝和、太田華子) 実践リーダー養成プロジェクト 合宿記録
NPO法人プレイバック・シアターらしんばん アクティングコース ハンドアウト |